仕事の素晴らしさ

更新。

仕事の素晴らしさ

仕事の素晴らしさ

 

その女性は何をしても続かない人でした。

 

田舎から東京の大学に来て、部活やサークルに入るのは良いのですが、すぐイヤになって、次々と所属を変えていくような人だったのです。

 

 

 

そんな彼女にも、やがて就職の時期がきました。

 

最初、彼女はメーカー系の企業に就職します。

 

ところが仕事が続きません。

 

いつしか彼女の履歴書には、入社と退社の経歴がズラッと並ぶようになっていました。

 

すると、そういう内容の履歴書では、正社員に雇ってくれる会社がなくなってきます。

 

ついに彼女はどこへ行っても正社員として採用してもらえなくなりました。

 

結局、彼女は派遣会社に登録しました。

 

ところが派遣も勤まりません。

 

 

 

ある日のことです。

 

例によって「自分には合わない」などと言って派遣先をやめてしまった彼女に、新しい仕事先の紹介が届きました。

 

スーパーでレジを打つ仕事でした。

 

当時のレジスターは今のように読み取りセンサーに商品をかざせば値段が入力できるレジスターではありません。

 

値段をいちいちキーボードに打ち込まなくてはならず、多少はタイピングの訓練を必要とする仕事でした。

 

 

 

ところが勤めて1週間もするうち、彼女はレジ打ちにあきてきました。

 

ある程度仕事に慣れてきて

 

「私はこんな単純作業のためにいるのではない」と考え始めたのです。

 

とはいえ、今までさんざん転職を繰り返し、我慢の続かない自分が彼女自身も嫌いになっていました。

 

もっとがんばらなければ、もっと耐えなければダメということは本人にもわかっていたのです。

 

しかしどうがんばってもなぜか続かないのです。

 

この時、彼女はとりあえず辞表だけ作ってみたものの、決心をつけかねていました。

 

するとそこへお母さんから電話がかかってきました。

 

「帰っておいでよ」

 

受話器の向こうからお母さんのやさしい声が聞こえてきました。

 

これで迷いが吹っ切れました。

 

彼女はアパートを引き払ったらその足で辞表を出し、田舎に戻るつもりで部屋を片付け始めたのです。

 

 

 

長い東京生活で、荷物の量はかなりのものです。

 

あれこれ段ボールに詰めていると、机の引き出しの奥から1冊のノートが出てきました。

 

小さい頃に書きつづった大切な日記でした。

 

なくなって探していたものでした。

 

パラパラとめくっているうち、彼女は

 

「私はピアニストになりたい」と書かれているページを発見したのです。

 

そう。彼女の高校時代の夢です。

 

「そうだ。あの頃、私はピアニストになりたくて練習をがんばっていたんだ。。。」

 

彼女は思い出しました。

 

なぜかピアノの稽古だけは長く続いていたのです。

 

しかし、いつの間にかピアニストになる夢はあきらめていました。

 

 

 

彼女は心から夢を追いかけていた自分を思い出し、日記を見つめたまま、本当に情けなくなりました。

 

 

 

「あんなに希望に燃えていた自分が今はどうだろうか。

 

履歴書にはやめてきた会社がいくつも並ぶだけ。

 

自分が悪いのはわかっているけど、なんて情けないんだろう。

 

そして私は、また今の仕事から逃げようとしている。。。」

 

 

 

そして彼女は日記を閉じ、泣きながらお母さんにこう電話したのです

 

「お母さん。私 もう少しここでがんばる。」

 

彼女は用意していた辞表を破り、翌日もあの単調なレジ打ちの仕事をするために、スーパーへ出勤していきました。

 

 

 

ところが、「2,3日でいいから」とがんばっていた彼女に、ふとある考えが浮かびます。

 

 

 

「私は昔、ピアノの練習中に何度も何度も弾き間違えたけど、繰り返し弾いているうちに、どのキーがどこにあるかを指が覚えていた。

 

そうなったら鍵盤を見ずに楽譜を見るだけで弾けるようになった」

 

 

 

彼女は昔を思い出し、心に決めたのです。

 

 

 

「そうだ。私は私流にレジ打ちを極めてみよう」と。

 

 

 

レジは商品毎に打つボタンがたくさんあります。

 

彼女はまずそれらの配置をすべて頭に叩込むことにしました。

 

覚え込んだらあとは打つ練習です。

 

彼女はピアノを弾くような気持ちでレジを打ち始めました。

 

そして数日のうちに、ものすごいスピードでレジが打てるようになったのです。

 

 

 

すると不思議なことに、これまでレジのボタンだけ見ていた彼女が、今まで見もしなかったところへ目がいくようになったのです。

 

最初に目に映ったのはお客さんの様子でした

 

「ああ、あのお客さん、昨日も来ていたな」

 

「ちょうどこの時間になったら子ども連れで来るんだ」とか、いろいろなことが見えるようになったのです。

 

それは彼女のひそかな楽しみにもなりました。

 

相変わらず指はピアニストのように、ボタンの上を飛び交います。

 

そうしていろいろなお客さんを見ているうちに、今度はお客さんの行動パターンやクセに気づいていくのです。

 

「この人は安売りのものを中心に買う」

 

とか

 

「この人はいつも店が閉まる間際に来る」

 

とか

 

「この人は高いものしか買わない」

 

とかがわかるのです。

 

 

 

そんなある日、いつも期限切れ間近の安い物ばかり買うおばあちゃんが、5000円もするお頭付きの立派なタイをカゴに入れてレジへ持ってきたのです。

 

彼女はビックリして、思わずおばあちゃんに話しかけました。

 

「今日は何かいいことがあったんですか?」

 

おばあちゃんは彼女ににっこりと顔を向けて言いました。

 

「孫がね、水泳の賞を取ったんだよ。今日はそのお祝いなんだよ。
いいだろう、このタイ」と話すのです。

 

「いいですね。おめでとうございます」

 

嬉しくなった彼女の口から、自然に祝福の言葉が飛び出しました。

 

お客さんとコミュニケーションをとることが楽しくなったのは、これがきっかけでした。

 

 

 

いつしか彼女はレジに来るお客さんの顔をすっかり覚えてしまい、名前まで一致するようになりました。

 

「○○さん、今日はこのチョコレートですか。でも今日はあちらにもっと安いチョコレートが出てますよ」

 

「今日はマグロよりカツオのほうがいいわよ」などと言ってあげるようになったのです。

 

レジに並んでいたお客さんも応えます。

 

「いいこと言ってくれたわ。今から換えてくるわ」

 

そう言ってコミュニケーションをとり始めたのです。

 

彼女は、だんだんこの仕事が楽しくなってきました。

 

 

 

そんなある日のことでした。

 

「今日はすごく忙しい」と思いながら、彼女はいつものようにお客さんとの会話を楽しみつつレジを打っていました。

 

すると、店内放送が響きました。

 

「本日は大変混み合いまして大変申し訳ございません。どうぞ空いているレジにお回りください」

 

ところが、わずかな間をおいて、また放送が入ります。

 

「本日は混み合いまして大変申し訳ありません。重ねて申し上げますが、どうぞ空いているレジのほうへお回りください」

 

そして3回目。

 

同じ放送が聞こえてきた時に、初めて彼女はおかしいと気づき、周りを見渡して驚きました。

 

どうしたことか5つのレジが全部空いているのに、お客さんは自分のレジにしか並んでいなかったのです。

 

 

 

店長があわてて駆け寄ってきます。

 

 

 

そしてお客さんに

 

「どうぞ空いているあちらのレジへお回りください」

 

と言った、その時です。

 

 

 

お客さんは店長に言いました。

 

「放っておいてちょうだい。

 

私はここへ買い物に来てるんじゃない。

 

あの人としゃべりに来てるんだ。

 

だからこのレジじゃないとイヤなんだ」

 

 

 

その瞬間、レジ打ちの女性はワッと泣き崩れました。

 

 

 

お客さんが店長に言いました。

 

「そうそう。私たちはこの人と話をするのが楽しみで来てるんだ。

 

今日の特売はほかのスーパーでもやってるよ。

 

だけど私は、このおねえさんと話をするためにここへ来ているんだ。

 

だからこのレジに並ばせておくれよ。」

 

 

 

彼女はポロポロと泣き崩れたまま、レジを打つことができませんでした。

 

 

 

仕事というのはこれほど素晴らしいものなのだと初めて気づきました。

 

すでに彼女は昔の自分ではなくなっていたのです。

 

それから、彼女はレジの主任になって、新人教育に携わりました。

 

彼女から教えられたスタッフは、仕事の素晴らしさを感じながら、お客さんと楽しく会話していることでしょう。

 

関連ページ

1984中島みゆき〜最後のはがき〜
江頭 2:50伝説のスピーチ
パラオに咲く「サクラサクラ」
賢い奴は騙されずに得して勝つ
山口良治先生 伏見工業ラグビー部奇跡の伝説 信は力なり
男はつらいよ・お帰り寅さん
親という字
たけしの人情落語
宇宙貯金の話
歌ってみた「案山子」
LOVE&PEACE
英霊の心を知って「日本に誇りが持てた」
台湾で神になった日本兵「飛虎将軍」
鏡の法則
「良い店」を見つける
パチ屋のイベントの見極め
「回る台を探す」・・・それがすべて!
これが優良店抽出方です!
タテの比較こそが釘読みの真の意義!!
一台一台異なる「デキ」の把握
釘の悪い台ほどデキが良い!?
経営に頭を悩ますホール店長様へ
独断と偏見のホール経営考察
理論を実践できないのは理解していないのと同じ!
期待値と仕事量は完全に一致する!
またどこかで会おうね
強くなりたい
いのちをいただく
「反抗期」
「震災と向き合う12才の日記」
「最後の宿題」
「アンパンマン」に込めた哲学
「ごめんな」
「サンタさんのおくすり」
「一人娘の結婚式」
「天国のオカンへ」
「笑顔をたやさない」
「天国のお兄さん」
「1年前事故で亡くなった妻の遺品」
私が あなたを 選びました
「迷惑」
「おばあちゃんの本当の想い」
「誰かのために・・・」
「世界に一つのお子様ランチ」
「ウエディングプランナーの素敵な話」
支えあいの大切さ
プロポーズ
授業中
アンパンマンが許さないこと
感謝して生きていく
失う前に大切にしておきたいですね。
「迷惑」
萩本欽一
【思いやり】
さかなくん、優しいですね。
子供にやってはいけない叱り方、十ヶ条
憎んだら、あなたまで持っていかれちゃうわよ
最後のお弁当
双子の赤ちゃん
幸せいっぱいの夫婦
宮崎駿監督がサインを書かないワケ
子 に込められた想い
シバ、ありがとう
大切なもの
赤ちゃんの気持ち
誰かが・・・
プロポーズ
先生のひとこと
【好きの表現】
ナースが聞いた★死ぬ前に語られる後悔★TOP5
笑っているお母さんが大好き
子育て
お父さんにほうこくがあります
人を褒める天才になろう!
立ち向かわなくてもいい
人生最期の日の未来のあなたより
肩の力を抜いて
ベトナム中を涙させた少年の話
感謝の心
勇気ある行動
本当に感謝
親孝行をしておこう
前を向いて
理由がなくても
ボスとリーダーの違い
family
イチロー選手の子どもの頃の作文
お母さんへの手紙
妹思いの兄
祈りは通じる
悪いのは自分だ
丸坊主
人の心は
永遠じゃない
すべて終わってしまいました
電車で帰省していた時のこと
正範語録
本当の愛
人は30秒のギュっ
人生泣き笑いで100
傷ついた捨て犬が子猫を守っていた
お子様ランチ
3月11日ディズニーランドで
時間銀行
“仲がいい”って
『忙しい人』と『仕事ができる人』20の違い
親友というのは
負けるな
高校最後のテスト
特別な人
動物を飼うということ
好きになっちゃったから
ある女の子の物語
「自分をほめてくれる人」とつきあうことのススメ
交通事故
面接の時
天国からのランドセル
本当の強さ
月明かりの下で
【ありがとう】
所ジョージの生き方
【笑顔の心10ケ条】
拍手で返事を
スナフキン
いろいろな人たちのお陰で
私 の 親 友 の 話
こんなに大きくなりました
最強最高の兄ちゃん
実は、すごくつらかったんだよ
あの子がいてくれれば
オレンジ色のチューリップ
彼女に唐突に振られた
希望
意地を張らずに素直に生きる
自衛隊への感謝の手紙
ミーコが大好きだった
言葉とは本当に難しい
嫁の手
君には無理だよ
ディズニーの対応
ネコ
大事な話がある
出会う確率
最後の力を振り絞って
後ろに立って
お金が送った手紙
アルゼンチンの忠犬ハチ公
ツライとき
彼女の生き様
1ドル11セントの奇跡
そうじの師
大事な友達
トルコ航空機
教師生活の最初の日
大好きなおばあちゃん
隠した本心
ピカソの7つの助言
さかなクン
ジョニー・デップの真実
5になりましたね
仕事は朗らかな気持ちで
ドラえもんの最終回説
当てはまる数が多いほど大切な人
不器用な少女
メガネを取ったら・・・
大切な人
この時代に生きる私達の矛盾